米沢有為会会誌復刊17号(昭和43年8月)
興譲館だより(昭和43年、1968年)
東京興譲館
都心を離れた、すがすがしい静かな雰囲気の、ここ調布市の入間町に引っ越してから1年半程経ってしまいました。当興譲館も何とか一人前に近所づきあいも出来る様になったらしく、時々、近所の人が「いつも子供がお世話になって」とか言って、菓子や寿司を持って来て下さったりする様になりました。村八分にされることなく何とかこの入間の町に根をおろすことの出来た東京興譲館から近況をお知らせ致します。今年は伊藤秀靖、大滝則忠、加藤国雄、本村琢美、高橋丈夫の諸兄を送り、新たに13名の新入舎生を迎えました。尚、渡部昭兄はこの春教育大を卒業されて大学院に進まれ、さらに寮に残り我々と生活を共にされることになりました。若さと新鮮さにあふれる13名の新人諸君も、ようやく大学生活にも慣れ寮生活にもなじみ、マイペースで活躍し始めた様子です。そして寮生活に慣れるに従ってそれまで猫をかぶっていた新入舎生もそろそろ本性を現わしてきたのか、上級生から「今年の新舎生は生意気だ」などという声がちらほら聞かれる様になってきました。考えて見れば、現在の上級生が新舎生などと言われた頃は「今年の新舎生は......だ」などと言われた様な気もするのですが本当に面白いことです。そんなものかも知れませんし、それで良いのかも知れません。そんな新しい世代の力が、又寮の新しい伝統を創り上げてゆくのでしょう。そんなことが毎年毎年繰り返されて、東京興譲館の歴史が創られてゆくのでしょうから。そんな風潮に刺激されてか、5月に改選された委員会は2年生を委員長として組織されました。委員会は新しい寮の創造などと言ってはりきっています。この新しい力を暖い目で見守ってゆこうなどという向きもある様です。
さて、この春には今まで十余年の長きにわたって私達の世話をして下さいました佐藤英おばさんが辞められました。寮生ならば誰しも「ツケツケツケ」と一度ならずとやられたものでしたが、それだけに我ままも言えたし私達にとっては本当にお袋さんのようないいおばさんでした。佐藤おばさんに代って、この度新しく中川おばさんをむかえました。おばさんは米沢のある病院で看護婦をされていたということで、今まで急病の時などを考えると何かと心配だったのですが、今度は本当に心強い限りです。それにしても気さくなやさしいおばさんで、寮に来られるとすぐみんなとは長いつきあいのように、寮生のことを親身になって考えて下さいます。寮生一同素晴しいおばさんを迎えることが出来たことを心から喜んでいます。恒例の春の旅行も今年は中川おばさんの歓迎とおばさん等の日頃の慰労の意味で、おばさんと一緒に犬吠に行きました。日頃おばさんと飲む機会の少ない私達、いつも食堂で話すとは又別の雰囲気の旅行先で、大いに飲んで話し合い、楽しいひとときを過し、大所帯東京興譲館の親睦に一役果した様です。もちろん初夏の犬吠の海はすばらしいものでした。
又、先日は、山形県5寮対抗野球大会が多摩川べりのグランドで開かれました。このリーグ戦に於いて、当興譲館チームは第1戦に敗れは致しましたが、他チームを打ち負かし見事逆転優勝を成し遂げました。その夜は、出入りの店から祝の酒などがとどいて、盛大な優勝祝賀会が開かれました。尚、この度の優勝は、大会8年目にして勝ち得た栄冠でした。又、寮内学年対抗バレーボール大会も先日行われました。日曜日だというのに6時半に起きて晴天の下(ある店から「ウィスキーレッド」が副賞として提供されるというので)みんな大ハッスル。奮戦の結果、3年生が優勝しました。
スポーツとならび、文化方面の活動も盛んなものがあります。昨年に続き、寮誌「澪標<みをつくし>」が今年も発刊されました。新寮に移ってから1年半、寮生も48名、多人数となり、アパート化しがちな寮生の相互理解に一役買うものとしてなかなか有意義なものです。
この頃は、クラリネットやトランペットなどのけっこう専門的な楽器を買いこんで練習している者もおりますし、去年の暮ごろから各部屋とも、いろいろな全集ものがちらほらしてきているし、又週末ともなれば「現代中国語講座」に精を出すといった具合に、寮内のアカデミックなムードもなかなか大したものです。
この様に私達48名の若人は、寮生活の基盤の上に、学問にスポーツにと各方面に活躍し、この1、2年、何かと新しい伝統の創造の必要性の叫ばれている折、寮生一同、新しい伝統を創り上げるべく、互いに切磋琢磨して楽しく寮生活を送っています。
最後に舎生を紹介して筆をおきます。
1 年 生
安 部 敏 早大 法
伊 藤 秀太郎 明大 法
大 熊 善 蔵 中大 商
大 場 明 東大 理二
川 越 治 中大 商
小 林 伸 一 立大 社
斎 藤 和 博 学習院 文
士 司 和 昭 日大 商
関 博 東経大 経済
武 田 篤 青学大 理工
中 川 了 上智大 外国語
福 崎 進 工学院 機械工学
横 山 敬一郎 明大 工
2 年 生
菅 野 憲 幸 中大 法
小 島 建 介 明大 政経
寒河江 幸 平 東工大
庄 司 芳 彦 明大 商
節 木 和 美 青学大 法
鈴 木 時 男 学習院 経
高 橋 賢 二 法大 法
兵 庫 等 中大 理工
藤 谷 佑 三 東理大 理
本 多 和 彦 東洋大 文
官 坂 孝 夫 中火 理工
3 年 生
加 藤 真 琴 日体大
川 合 勝 雄 東教大 理
小 島 和 夫 東経大 経営
小 林 政 行 東経大 経済
佐 藤 真 人 早大 商
鈴 木 正 弘 法大 工
棚 橋 千 秋 法大 法
橋 本 敬 三 東経大 経営
松 木 良 光 中大 経
村 石 力 弥 専大 経営
4年 生
小 林 圭 一 玉川大 文
斎 藤 文 宏 日大 法
酒 井 貴 東工大
鈴 木 常 夫 国学院 文
篠 宮 雅 夫 中大 法
中 条 良 文 東歯科火
中 原 和 夫 中大 経
新 野 勝四郎 明大 農
西 山 雅 俊 日天 理工
沼 沢 弘 之 慶大 法
村 上 晃 一 慶大 工
村 上 徹太郎 法人 経営
山 本 昌 伸 日天 文理
大学院生
渡 部 昭 東散大 大学院
副 館 長
井 熊 征 一 早大 大学院
仙台興譲館
ガランとした人気のない室の戸を開く。塵にまみれた室だ。その天井のしみを見る。やんちゃな雨垂れをなだめようと、古来忍びの者に秘伝として伝わる「糸落し」(?)を使った事もあったな、ふと思い出される。室の片隅、そこには机があったのか。昔のゴチャゴチャした生活が頭に浮かんで来る。そうすると、もうまもなく同じこの所に真新しい寮が建つんだな、思わず微笑む。自分の家が新しくなる子供の様な楽しみなのだろうか?
現在、念願の新寮建築はとうとう着工の途を歩んでいる。宇佐見会長はじめ有為会会員方々の多大なる御尽力の賜物と舎生一同深く感謝する次第です。これからの大学生活にきっと新しい張りをもたらしてくれる新寮に胸を躍らしながらその竣功の日を待っています。
この様に、寮新築問題を軸として仙台興譲館はその話題が持ち上った昨年の秋から何やらあわただしかった。現在に至っては、不慣れのせいだろうか、寮外生活者にとっては一大惨事の感がする。今までに至る寮新築過程は決っして簡単な一路でなかった。鉄筋コンクリートのモダンな新寮を建てようと、この場所を離れて別な所への移転案が出された。そこで、その候補地4地点の経済・交通・環境・他詳細な分野に渡って調査し検討を重ねた。実地踏査をした所もある。その結論はこうだった。環境に申し分のない、いや良すぎる位の広瀬河畔にある今の場所にさよならは止そう。そして、初夏の薫る季節に新寮建築は本決まりとなった。私達は未来の良き住まいを考えた。その図面とのにらめっこもあった。今、私達のほぼ半数は寮の新館に残っている、他の者は寮外生活をしている。「確かに、あそこでの生活は良かった。」寮を出た私は痛感している。おそらく、私だけの感想ではあるまい。
さて、私達は、戸田隆、高橋英機の良き諸兄を失いながらも4名の新寮生を迎え、総勢27名となって新年度を出発した。
春恒例のピクニックは奥松島めぐりであった。いかにも春らしい雰囲気に包まれながら遊覧船で奥松島を巡るという豪華プランで行なわれた。今年は総勢50数名と多く、娯楽係も目の回る忙しさ。
松島や ああ楽しきや 松島や
しかし、こんな明るいニュースの影にかくれて、私達に問題を投げかけているものがある。仙台興譲館生の生活状態を示す1つのバロメーター『文集みすかんとす』のことである。第8号は作成されたが、次号の発刊が危ぶまれているのである。というのは、あまりにも原稿提出に時間を浪費するという現状から私達はみすかんとすを作る意義よりも、それに対する私達の意識について問わねばならない状況に陥っているのである。そのため、もし適当な枚数の原稿が集まらなければ文集をつくらないという賭に踏みきるという段階にまで陥っている。寮唯一の個室に貼られた募集ポスターの1句「ふんばって出そう」、係は懸命になって呼びかけた。ところがあにはからんや思ったよりも急速に新築のことが進み文集作成は延期されてしまった。この結末はいずれにせよ興味深いものである。
大きな出来事だけを拾ったが、仙台興譲館はアパート化していない、相互に結びついている寮だと記して詳細にかえたい。最後に舎生全員を記して筆を置こうと思う。
4 年 生
松 田 修 東北大学工学部
加 藤 義 彦 東北大学工学部
伊 藤 庄 一 東北大学工学部
伊 藤 和 夫 東北大学理学部
滝 口 政 彦 ″
3 年 生
小 林 晄 徳 東北大学工学部
鈴 木 寛 東北大学工学部
田 中 俊 夫 東北大学工学部
大道寺 七兵衛 東北大学医学部
芳 賀 彦 一 東北大学理学部
島 津 博 徳 東北大学工学部
神 尾 仁 東北大学文学部
手 塚 宮 雄 東北大学文学部″
2 年 生
衣 袋 貞 雄 東北大学工学部
半 田 喜代二 東北大学工学部
岡 部 寛 一 東北大学工学部
遠 藤 光 広 東北大学理学部
横 井 博 東北大学理学部
金 田 裕 和 東北大学理学部
高 橋 良 見 東北大学理学部
竹 部 憲 次 東北学院大学径済学部
笹 木 邦 明 東北学院大学径済学部
我 妻 敏 東北大学医学部
1 年 生
高 野 茂 徳 東北大学法学部
紺 野 洋 一 東北大学経済学部
金 子 真 一 東北大学工学部
本 間 雄 二 東北大学工学部
札幌興譲館
ライラックの花開き、すずらん咲き乱れ、新緑の木々でさえずる小鳥達、まるで天国のような環境の札幌興譲館、その上去年の8、9月には寮の増改築もなり実に快適な毎日です。以下寮の増改築のことと寮の近況をお知らせします。
○寮改築のこと
まず紙上をかりて、本部の皆様又全会員の皆様にお礼をのべさせていただきます。
長年我々寮生の夢だった寮の改築が去年の夏に実現いたしまして、寮生一同心からよろこんでおります。ほんとうにありがとうございます。
寮の外形は今までとほとんど変わりありませんが、うす赤いモダンな外観になりました。部屋は6畳1人部屋が、8畳2人部屋になり、定員は12人が18入になりました。水道は自家水道、風呂はガス、便所は水洗式、食堂も2坪ほど広くなり、寮中の窓は二重になり、今回の冬は雪おろしの必要もなく快適にすごすことができました。

○卒業生、新入生
3月には、唯一の卒業生農学部畜産学科の須藤誠一先輩を追い出し、4月には元気ハツラツとした3人の新入生、安部、伊藤、酒井を迎えました。さっそく開かれた歓迎コンパでは、初めは緊張していた3君も先輩連の心からの歓迎のしるしのドンブリ酒を飲んでからはみんな......でした。大学生活3ヶ月、もう3君ともすっかり慣れ、北大の5月危機ものりこえて勉学にはげんでいるようです。
○北大大学祭
6月の3日から9日までの1週間は恒例の大学祭、今年は学部ごとに展示の日がちがっていたりして不統一な面もあったようですが、天気にもめぐまれ、8、9日の一般公開口には、市民、女子大生、高校生やらが集まり、大変なにぎわいのようでした。教養の模擬店には、バナナのたたき売りまであらわれ、プロ顔まけの口調で通りすがりの人々を楽しませていました。又十分間詩吟教室等もあり女の人もきいろい声をはりあげて詩吟をおぼえている姿も見られました。
○寮の旅行のこと
去年は各人の日程の都合で流れてしまったので、寮の旅行を今年は必ず行うと係は4月ごろからはりきっています。今年は層雲峡・夫人峡あたりが有力になってきています。去年のように日程の都合で流れたりしないように皆のそろっている夏休みの終りにやろう、ということになりました。
○寮生日誌のこと
寮生活の記録を末代まで残そうと、5月から毎日一人ノート1頁ずつ、近ごろ感じている事や、その日のできごと、その他何でも各自の書きたいことを書くことにしました。もう3回ほど回りましたが専門的な解説あり、詩あり、紙上討論ありでなかなかおもしろいものです。最近では1頁では足りなくて、禁を犯して2頁も書く人もできています。各頁には各人の個性が満ち、各人の知られざる一面もあらわれ寮生相互の理解・連携にも一役かっているようです。後々にはきっと大学生活、特に寮生活のなつかしい思い出として思い出されることでしょう。
○朝食会のこと
寮改築のなった去年の9月から、せっかく寮が新しくなったんだから大切にしようということで1ヵ月1~2度寮の床にワックスをかけることにしました。これをさらに発展させ、3月からは2週間に1度寮母さんの休日でない日曜日の朝、朝食会も共におこなうことにしました。ゆっくりと昼ごろまでも寝すごしたいせっかくの日曜日にと反対もありましたが、寮内の民主勢力の若い力の前に敗れさり結局実施されることになりました。1階の床は下級生の若者チーム、2階の床は上級生の年寄りチームと分け、床にワックスをかけ、それの終った後でみんなそろって楽しく朝食会をやっています。いつもは昼ごろ起き出して、ちょっと何かやっているとすぐに夜になり結局何もできないというような傾向にある非生産的な日曜日も、朝早く起きることで、長い日曜日を楽しめ、充分に有意義にすごせるとよろこんでいます。
○最近の寮のムード
以前ならば、夜ともなれば必ずといっていいほどきこえていた「ジャラジャラ」という雀のなき声もめったに聞かれなくなり、毎週欠かさず必ずだれかが買ってきていた少年サンデー・マガジンも姿を消してしまって実にアカデミックな雰囲気がただよっています。
とはいっても完全にアパート化してしまって部屋にとじこもりきりというわけではありませんで当寮独特の家庭的なごやかさは決して失われてしまったわけではありません。以前には無意味にすごしていた時間を有意義にすごすようになってきたといえると思います。この原因はというと、それは寮生日誌や朝食会の立役者となり、入寮以来その新鮮さを失わず何事につけても中心となってきた現在の寮の民主勢力の中核3年目の影響といえるでしょう。最近、寮のアパート化などがさけばれている中で当寮は本来のなごやかな家庭的雰囲気を失わず、よりアカデミックにしていきたいと思っています。
初夏の別天地も夜は、側を通る蒸気機関車の音とさびしげな犬の遠ぼえだけが聞こえてきます。最後に寮生を紹介して小生もベッドに入りたいと思います。 (史記)
新 入 生
安 部 和 夫 北大教養部理類
伊 藤 勝 北大教養部理類
酒 井 信 秀 北大教養部理類
2 年 生
斎 藤 興 司 北大教養部理類
3 年 生
相 田 勝 彦 北大理学部地質学鉱物学科
平 田 謙 志 北大工学部土木工学科
板 谷 邦 夫 北大農学部農学科
孫 田 信 一 北大理学部生物学科
船 山 隆 寿 北大法学部法律学科
山 水 史 生 北大理学部地球物理学科
遠 藤 栄 吉 北大経済学部経済学科
岡 田 昌 彦 北大医学部医学科
4 年 生
平 徳 雄 北大法学部法律学科
戸 田 剛 北海学園大学経済学部
藤 倉 良 裕 北大医学部医学科
大 学 院
山 村 勝 北大大学院農学研究科
興 譲 館 大 会 報 告
毎年、恒例の行事として、札幌、仙台、東京の3興譲館寮生が一堂に会して、この大会が催されています。
主催は3寮が交代でやっていますが、昨年は札幌興譲館が主催し、8月20日、米沢興譲館高校に於いて、球技対抗試合(バレー、バスケット)が行なわれました。
夜は小野川温泉春木屋旅館に集合し、大いに飲み、語り、相互の親睦を深めました。
学ぶ場所こそ違え、出身地を同じくし、又有為会寮という同じ環境で生活している我々学生にとって唯一の機会です。
久しく会う友人、そして初対面の友とスポーツを通して親睦を深め、酒の席での交歓によって互いに知り、かつ磨き合うことがなされる1日です。
今年の主催は、東京興譲館で、8月18日午前10時より、米沢興譲館高校、春木屋で行なわれる予定です。例年に増した企画、アイディア等を用意し、本大会の主旨を一層掘り深めて、有意義な1日にしようと張り切っています。更に新しいものを創造し、本大会を実のあるものにしようと努力することが大切だと思います。
最後に、諸先輩の皆様にも是非参加していただき、いろいろとお話しをして頂くことができれば幸いです。