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米沢有為会会誌復刊14号(昭和40年8月)
興譲館だより(昭和40年、1965年)

東京興譲館

 雑踏と塵埃の巷、東京副都心の一角に、砂漠におけるオアシスのごとく、水々しい草原が奇跡のように存在します。この我々が庭と称する草原には、米沢の町中にも珍らしいガマガエルやヤモリ、筋金入りのヤブ蚊、バッタその他諸々の小動物が生息し、近所の子供達にとっては自然教育園の観があります。まさに天然記念物的存在です。この草原に聳える(聳えると言っては言葉に適わないが)これまた重要文化財的な館とそこに起居を共にしている30名の近況をお知らせします。
 今年は、井熊征一、金子健一郎、後藤芳雄、高橋英也、筒井善二郎、村山晃也の諸兄を送り、新たに8名の新入舎生を迎えました。これら若さと、新鮮さにあふれる諸君も、ようやく大学生活にも寮生活にもなじみ、マイペースで活躍し始めた様子です。
 さて、昨年10月には、オリンピックの向うを張って、寮内学年別対抗の駅伝競争を行ないました。興譲館附近の約3キロメートル程のコースを1人1周ずつ走りリレーするわけです。オリンピックなみに交通規制をするわけにもいかず、交通量の少い時をねらって、全員6時起床、朝靄をついてスタート。脚に自信のあるのもないのも一生懸命走りました。結果は、2年生チーム(現3年生)が賞品の"お徳用洗濯石けん"を獲得しました。今度の秋の大会に備えて、今から夜の新宿を走り回ってトレーニングに励んでいる連中もおります。さぞかし、今年の駅伝は激戦のことでしょう。
 スポーツと言えば、自慢の広い庭では色々なスポーツが花盛りです。野球はもちろんのこと、バレー、サッカー、テニス、相撲、ボディビルからゴルフまで。お陰で、庭の草の伸び工合も例年よりは少いようです。次回のメキシコオリッピックにも、我が興譲館から選手が出るのではないでしょうか。ただ、隣にアパートが建築中で、ちょうど打球の飛ぶ方向に、一枚千円はするかと思われる大きなガラス窓ができたの気がかりですが......。
 野球と言えば、6月14日に山形県関係の5つの寮の間で対抗試合が行なわれる予定でしたが、残念ながら雨で流れてしまいました。今年こそは万年優勝候補の汚名を返上しようと練習に精を出しておりましたが、肩すかしを食った格好です。秋には是非とも優勝するつもりです。

看護学院寮との合同ハイキング

 もう1つ庭で忘れてならないのは、近所の看護学院寮の生徒さん達とのフォークダンス交歓会です。これも今年で4年目を迎え、年々上達の一途をたどり、我々の素質の良さも相まって、レパートリーもかなり広くなりました。新入生諸君もさすがうまいものです。また連絡員の活躍により、鎌北湖への合ハイや、討論会等も行ないました。
 閑話休題。なまずの機嫌が悪いのか、この頃たびたび地震があります。さらに先日は春一番とか称する突風が吹き荒れました。そんな時には、我等が重要文化財的館は、明治時代的な周期を持って振動を開始し、それに伴い、柱や壁は、妙なる雅楽を奏し始めます。もっとも、建築家の卵氏の説に依れば、我等が興譲館は柔らかい耐震構造を持ち、強風にも柳に風と吹きながし、地震がくれば、その震動を吸収してしまうから、絶対に壊れないそうな......けれども、耐震構造も柔らかすぎると、若さにあふれる寮生が2階を闊歩すれば、全体がゆさゆさ揺れ動く始末。安全をくだんの卵氏に保証されても、あまり気持の良いものではありません。
 この様な中に、我々30名の若人は、寮を生活の基盤とし、学問やサークル等各方面に活躍すると共に、現在まで幾多の先輩によって積み重ねられてきた伝統を礎とし、その上に新たな伝統を創り上げるべく、互に個性をぶつけ合いながら、アットホームな雰囲気のうちに寮生活をおくつております。
 最後に舎生を紹介いたしまして筆をおきます。
 ○新入舎生
酒井  貴   東工大
菅原 弘臣   東外大
鈴木 常夫   国学院大文
中条 良文   東京歯大
沼沢 弘之   慶大法
村上 晃一   慶大工
山本 昌伸   日大文理
坂元 典夫   芝浦工大 2年
 ○2年生
伊藤 秀靖   中大理工
大滝 則忠   教育大文
加藤 国雄   東工大
今野 尚敏   早大教
高橋 丈夫   武蔵大経

 ○3年生
安部 洋司   法大社会
五十嵐 宏   教育大教
佐藤 陞三   慶大経
手塚  修   早大理工
豊原 重良   中大商
中島 正臣   早大理工
平山 和博   東工大
 ○4年生
今井 利男   早大商
小野  仁   中大商
上村 正和   工学院大
小島 邦浩   東京薬大
島貫 裕輔   教育大体
斎藤亜基夫   早大教
高瀬  勝   早大理工
樋口 正宏   早大理工
舟山 国夫   明大政経
横山 北士   教育大体
           (K・H)

仙台興譲館

 今年の東北、北海道は異常な寒さが4月になっても続き、農業は冷害にみまわれるのではと各方面で心配されて居ります。しかし、5月も末近くなりますと新緑の息吹が息苦しくなる程感じられる様な今日此頃です。
 当寮では今年は、相田侃次氏(医)が大学院に進学され、大友康之(工)、鈴木正明(法)、高田和寿(工)、高橋信男(法)、長谷川啓二(教)の諸氏を社会に送り出し、山口孝宣氏(農)が工学部に編入学されました。替って7名の新入寮生を迎え、新たな雰囲気の中に毎日活気に溢れた生活を送って居ます。
 以下当寮の近況をお知らせします。
☆裏庭のこと
 昨年の大掃除のときだったでしょうか、寮の裏にあるちょっとした空地がそれまでは草ぼうぼうの荒地だったのですが、草を刈ったり右ころを除いたりして、バレーボール位ならやれる程度の庭になりました。毎日夕食前後に皆でバレーボールに興じていましたが、庭の囲りにある有刺鉄線の柵にあたり穴があいてガッカリしたものでした。しかし、すぐにボールを買うこともできず、しばらくの間はバレーボールもできないで居りました。
 又、仙台で毎年開かれているらしい「お母さんのバレーボール大会」が近づいたときには近所のお母さん方がこの庭で練習をしました。その時は寮生もいっしょになって練習の相手を勤めました。そしてその成績はどうだったのか知りませんが終ってからお菓子などをもってきて下さって、「これからも宜しく」などといわれて少々いい気になっていたものでした。近所の人々とも親しくなれる良い機会なのでこれからもあればいいなあと思っています。
☆文集のこと
 前年の会誌でお知らせしました文集発行のことですが、この文集の名を「みすかんとす」としました。この名の由来は、わが寮の寮歌(?)なるものが「枯すすき」すなわち「舟頭小唄」であるのです。そこで「すすき」の学名 Miscanthns Sinensisから前半をとって「みすかんとす」なる名ができあがった訳です。この文集の名前を募集したときには、烏合とか枯すすき、すずめなどいろいろの名があったのですが何かもっと気の効いたものがないかと、あれこれ考えているうちに出てきたものです。表紙はガリ版で印刷したのでは何か味気ないということで、版画をつかってやってみようとしたのです。これが割合にいけるとわかったので文集「みすかんとす」は版画による表紙で中々手のこんだものになりました。これからは、中のカットなんかも版画で色つきにしようかなどと相談しているようです。この文集もはや2号まで刊行され、今編集委員が第3号の編集にあたって居ります。寮では数少ない文化的活動の1つとして、重要な役割をもっています。
☆芋煮会のこと
 毎年行なわれている秋のピクニックは、2年前に行ったさいかち沼で行ないました。忘れられない故郷の味に舌つづみを打ちながら湖畔の芋煮会は大変楽しいものでした。
 役員は毎年場所探しに四苦八苦していますが、結局は、数ヶ所を循環して選ばれています。場所は同じでも人が変れば、また別の味があるので結構新鮮な気持がして、前と同じだという感じもなくなります。
☆ピクニックのこと
 今年の春のピクニックはこの5月30日にやることになりました。例年よりは少し遅い時期ですが、松島に行きます。今年はポータブルプレーヤーやフォークダンスのレコードなど買いましたので皆で1日を楽しくフォークダンスで過そうと今から楽しみにしています。今までのピクニックでは殆んどゲームにばかり興じていたのですが、今年は少し変ったピクニックになりそうです。どうか30日は晴れますように...

さいかち沼の一行

☆風呂のこと
 当寮では、火・木・土・日と週4回風呂を沸していますが、昨年の夏休みに工事をやってガス風呂になりました。それまでは薪を割ったり焚いたりするのに非常に手間がかかり寮母さんも大変だったのですが、ガス風呂になってからは非常に便利になり、寮母さんはじめ、寮生皆喜んでいます。このように我々の寮も段々と文明化(?)されつつあります。
 これからは寮生皆でこの寮を益々活発なものに、住みよいものにしようと張りきっています。
 最後に新入寮生及び寮生を紹介して興譲館便りを終ります。
 新入寮生
伊藤 和夫   東北大理学部
伊藤 庄一   東北大工学部
片倉 俊彦   東北大医学部附属X線技師学校
島津 博徳   東北大工学部
高橋 良見   東北大理学部
滝口 政彦   東北大理学部
松田  修   東北大工学部
 2年
加藤 義彦   東北大工学部
高橋 英機   東北大教育学部
高山 征一   宮城農業短期大学畜産学科
田中 健治   東北大工教
戸田  隆   東北大工学部
松本 耕輔   東北大工学部
 3年
江田  昭   東北大理学部化学科
遠藤 秀樹   東北大工教機械科
小口征四郎   東北大工学部通信工学科
佐藤 正昭   東北大工学部機械工学第二学科
清野 晃一   東北大理学部地球物理学科
平吹 隆一   東北大工学部応用物理学科
 4年
五十嵐 廉   東北大工学部金属材料工学科
大滝二三夫   東北大工学部電子工学科
木村 昌三   東北大工学部精密工学科
蔵田 国信   東北大理学部化学科
千喜良 誠   東北大理学部化学科
豊野 好一   東北大教育学部
沼沢 俊夫   東北大工学部電子工学科


札幌興譲館

 今年は新聞、テレビ、ラジオがひっきりなしにアメリカの北ヴェトナム爆撃を伝える中で、多勢のフレッシュマン、ウーマンを迎えることとなった。おばさん(寮母)の見合写真?を母校に寄贈し、更に札幌のジンギスカン、ビール、ラーメンが東京や仙台とは比べものにならん程イケルとか、札幌に来れば時計台の鐘の音を聞きながらポプラ並木の下を二人で歩けるぞと、大演説をぶってきた賜物だとか盛んにホラを吹く者も多数いたが、1年生にこっそり尋ねて見たら"今年の1年生は十分実力があったから当然だ。これからも一生懸命勉強したい"と胸を張って答えてくれた.........。純真な1年生は寮の歓迎コンパで生まれて初めての酒の洗礼を受けるのがならわしであるが、今年は入寮早々我寮特設のロビーに押入ったり、露骨にも酒が好きだと名のり出る者がいて、先輩一同、一瞬肝を冷した次第である(歓迎コンパでは新入生は無料招待を受けるのである)。北海道は昨年大冷害に会い農業政策の矛盾が表面化していたが、今年も冷害じゃないかと心配されていたあの肌寒い4月の末、盛大に歓迎会が催され裸でストームに繰り出しましたが、ついに女子寮は他の寮に先を越され、新入生の顔見せが出来なかった。この日元気な姿を見せておられた中野百太郎さんが5月17日急逝なされ、寮生一同信じられぬ気持でした。コンパの当日は例年になく何故か夜遅くまで有為会の方々と話をし、年は経てもがっしりと聳えたつ寮の歴史やヴェトナム戦争のことなど果てしなく話題が広がり、なごやかな雰囲気に包まれていたのでした。あの日の故人の姿が今も目ぶたに浮んできます。
 大掃除には厳冬の雪害で破損した屋根を、寮の設計者で現館長の伊藤さんじきじきの指図で10本のたる木を取りかえる大修繕を行なった。財政ピンチ故、縁の切れかかったトタンをまた張り直すという有様で、これからの寮運営は現在作成中の卒業生名簿を中心に再考する必要に迫まられている。先日の寮生総会でおばさんの給料のことが問題になり、安い給料を上げ待遇を改善しなくてはならないという気持と、そうすれば寮費が急上昇するという矛盾(本質的には対立するものではないが)にいろいろともめたが結局千円のベースアップを決定した。次にフレッシュウーマンの寮日誌を紹介する。
 例年より2間程春の来るのが遅いと云われ、5月に入っても膚寒い日の続いた札幌ですが、ようやく桜も散りポプラやエルムの木々の緑が日に日に濃くなっていく様子は何とも言えない美しさです。今年は北大5人、北海道学園大1名の新入生を迎えて寮全体が若返った感じです。札幌興譲館は各人の学業を守るという考えの下で現館長の伊藤さんが約40年前に設計された全員個室制のもので10の個室と2つの集会室があります。それで定員が10~12名となっていますが新入生を全員入れようという先輩の温い配慮で15人入っています。つまり新入生の机を先輩の部屋に分散し、寝る時は5人が集会室にというわけです。このお陰で個室制という型を取りながらアパート化は全然しておらず、ノック1つで他人の室に入り(ずうずうしい人はノックもしないで)長々とダベったり、将棋や麻雀を始めたり、ですから自分の室でも他人の室の様な錯覚に陥るとか陥らないとか......。寮生の娯楽にマンガがあります。今売出しのマンガは大抵揃えてあり、集会室に行けば誰か彼かそれを見てニヤニヤしている次第で、最初は『マンガなんて低級だ。』と見むきもしなかった人でも、1ヶ月もしないうちに『オーイ鉄腕アトムはどこだ。』という工合になるから不思議。歓迎コンパを皮切りにソフトボール大会、すずらん狩り等寮生の親睦をはかる行事が予定されております。こう書くと私達は安易な娯楽だけを追っている様ですが、これではいけないという各人の反省のもとで、月1回のゼミを開いて大学生活についてとか社会問題について皆で討論しようということになりました。第1回は「ベトナム問題について」行う予定でおります。
 そんな札幌の興譲館も、すやすやと眠る新入生の傍で犬のナスちゃんやボケ君が時々足を伸ばしたり、わけのわからない言葉を吐きながら深い深い眠りに落ちているようです。

北大寮とのソフトボール大会

 最後に寮生を紹介して終ります。
平井 利昭   北大理学部地質学鉱物学科4年
高野 文彰   北大農学部農学科4年
近藤喜十郎   北大文学部史学科4年
山村  勝   北大農学部林学科3年
古沢 友宜   北大工学部合成化学工学科3年
孫田 忠誠   北大工学部土木工学科3年
平田 謙志   北大教養部理類2年
須藤 誠一   北大教養部理類2年
相田 勝彦   北大教養部理類1年
藤倉 良裕   北大教養部医進課程1年
板谷 那夫   北大教養部理類1年
孫田 信一   北大教養部理類1年
平  徳雄   北大教養部文類1年
戸田  剛   北海学園大学経済学部1年
高橋 和子   北大教養部理類1年